東京地方裁判所 昭和25年(ワ)7348号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事實〕
原告は 昭和二十四年八月二十六日原告は被告に対し、金十五万円を利息年一割、弁済期同年九月二十五日と定め、貸渡したが、その際被告はその所有の本件二戸の家屋に抵当権を設定すると共に、これを目的として代物弁済の特約をした。しかるに被告は期限迄に右債務の弁済をしなかつたので、原告は昭和二十五年六月三日到達の書面で、前記特約に基き本件家屋の所有権を取得する旨を通知した。よつて原告は被告に対し本件家屋の明渡と、所有権移転の登記手続を求めると主張した。
被告は利率及び代物弁済の特約に関する原告の主張を否認し、つぎの抗弁を提出した。即ち(一)本件消費貸借契約は貸金業者でない原告が業として金銭の貸付をしたもので、貸金等の取締に関する法律第五条に違反し無効である。(二)被告が本件消費貸借により現実に原告から受領した金額は、金十五万円から利息月一割の割合による一ケ月分の利息及び手数料一割を天引された金十二万に過ぎないのに対し、本件二棟の家屋は国電阿佐ケ谷駅に近い交通の便利な土地にあり、延坪数合せて四十六坪三合六勺、敷地坪数は百二十坪の建物であるから、優に金五十万円以上の価値がある。しかも本件消費貸借の弁済期は一ケ月後であつて、その弁済期に弁済しないときは、原告から通知するだけで代物弁済により右二棟の家屋の所有権が原告に移転するというのであるから、このような代物弁済契約は貸主が借主の無智窮迫に乗じ特に短期間の弁済期を定め、借主において弁済しないときは貸付額に比し著しく多額の財産的給付をすることを約させた公序良俗に反する無効の契約であると争つた。この他の抗弁省略。
〔判斷〕
原告敗訴。
判決は被告の第一の抗弁を排斥した後、第二の抗弁について、証拠によつて利息の定めが被告主張のように高利であつた事実、本件消費貸借に際し現実に授受された金額が金十二万円足らずであつた事実、並に本件二棟の家屋の契約当時の時価が合計して金五十万円以上であつた事実をそれぞれ認定した後、この抗弁を採用して原告の請求を棄却した。曰く。
「貸金等の取締に關する法律第五条は右法律全体の趣旨からみて、これに違反した法律行為を無効とするいわゆる効力規定ではなく、狹義の取締規定にすぎないと解するを相当とする。」「これ等の事実から考えると、本件においては不法に高い利息、短い弁済期という条件の下に元金から約二割を天引し、更に弁済期に弁済がなかつたときは代物弁済として名目上の貸付元金額の数倍に値いする物件を給付するという契約であるから、消費貸借契約そのものは兎も角(註一参照)すくなくとも右のような代物弁済契約は特別の事情がない限り債務者の無智又は窮迫に乗じて締結された公序良俗に違反する無効の契約というべきである。」
註 (一)本訴被告は本訴の原告を相手に債務不存在請求異議事件昭和二十五年(ワ)第三二四三號を提起し、その請求の原因として前記第二の抗辯と同一事実を主張し、この代物辨濟契約の不法が消費貸借契約全体の無効を來すという趣旨の主張をしているのに對し、判決は代物辨濟契約が不法であつてもこれによりその基本たる消費貸借契約自體まで不法になるわけではないとしてその主張を排斥している。